宮崎研修2022 ~教育を通した地域創生~

太田 陽

〈概要〉

今回の研修は、宮崎県において、持続可能な社会を可能にする人財育成のための教育を軸に実践されている、地域創生の取り組みの現場を実際に見て、体験することが重たる目的です。

実際に現場で「探求学習」の実態を学ぶことができ、大変貴重な経験と学びを得ることができました。素晴らしい機会をいただけたことに、感謝致します。

〈研修内容の報告〉

1日目:

宮崎空港に到着。

昼食をとった後、宮崎県庁にて、宮崎県教育庁指導主事の上水陽一氏と、宮崎東高校定時制で教鞭をとられている西山先生に、教育現場で実感する課題や期待について、インタビューさせていただきました。

2日目:

午後から宮崎東高校に訪問。同校定時制で実践されている探求学習の取り組みについて、講演を聞いた後、実際に新1年生の探求学習に参加しました。哲学対話の導入として、質問ゲームを実践し、学生たちと「問いを出す」ことを練習しました。哲学対話の授業の他に、他のクラスでは、探求学習の成果を発表する場も設けられており、そちらも短時間ではありましたが参加することができました。

最後に、いくつかグループに分かれてのラウンドテーブルの時間があり、探求学習を参観したうえでの感想や、考えたこと等を、その日現場に集った教育関係者と共有する機会がありました。

3日目:

午前中に宮崎市内から移動し、高鍋町にある宮崎県立高鍋高等学校の学生たちと、同校の授業を見学しました。お昼休憩に町に出て高鍋名物の餃子を堪能した後、再び高校にて、高校3年生による研究発表を聞き、学生たちに交じって「哲学対話」を体験しました。

4日目:

最終日は高鍋町の隣町である、新富町で地域振興に取り組まれている〈こゆ財団〉様主催の「哲学対話」企画に、町民の方々と共に参加しました。お昼には、〈こゆ財団〉様のオフィスを訪問し、地域振興と教育を如何に掛け合わせて地域に貢献できるか、また、宮崎の知られざる魅力について、如何に対外的にアピールしていくべきかや、実践するうえでの難しさについて、財団の取り組み事例を基に議論し、考え、意見を出し合う時間を持ちました。

午後には〈こゆ財団〉スタッフの皆様の案内で、新富町の観光をし、普通では見られない町の特色や歴史的遺産に触れる貴重な機会を頂きました。この後、東京に戻りました。

〈事前教育・研修後の考察〉

宮崎県における「探求学習」と〈教育×地域創生〉の取り組みで特に印象深かった点として、生徒の「好き」や、それぞれの個性がより活かされるような環境があったことが挙げられます。

研修2日目に探求学習のお手伝いをさせていただいた宮崎東高等学校の定時制では、新入生はまず、自分が「何を学びたいのか?」を「哲学対話」の授業を通じて考えさせられます。「学校へ行く=がむしゃらに与えられたタスクをこなす」ではなく、「そもそも、自分がいずれは何をして生きていきたいのか?それには何を学ぶべきなのか?」という問いを生徒たちが主体的に「探求」していける環境が備えられていました。同定時制のある卒業生は、自分の将来の目標を達成するためには、数学の知識が必要だ、と言うことを自ら自覚し、必要性を分かって数学を学ぶようになった、という事例を知りました。

研修3日目に訪問した高鍋高校のカリキュラム構成を見た時にも、①豊富な進路選択の余地があり、②学校のカリキュラムが生徒一人ひとりの個性を尊重し、③学んだことが社会に活かされることが意識されていたことが印象的でした。事前教育には、高鍋高校の事例として「高校生=子供、ではなく、社会の中の一員として学ぶ、社会と繋がって学ぶ」という動きがある、との上水先生のコメントがありましたが、その実態を高鍋高校見学の際に、より実感できるようになりました。

元々、宮崎県では一次産業が盛んで、それに伴い学校バランスが「普通教育」対「産業教育」=1対1という、全国的に見ても稀な割合で成り立っていることは予め聞いていました。このような本来ある地域の特性が、上記の2校のような学びの環境を可能にした、という因果関係があるかもしれません。しかしそれ以上に、私が現場を見て「これが大きい」と感じたのは、指導する側である先生方の生徒との向き合い方でした。

宮崎東高校定時制の西山先生のお話を聞いた際に、「教員の心のゆとりが、生徒の学習の質アップに繋がるのかもしれない」と仰った考察が心に残っています。この因果関係を聞いたとき、本当にその通りなのかもしれない、と思いました。実際に、大阪市にある映画『みんなの学校』の舞台となった大空小学校では、一般では “扱いづらい” と言われる生徒が入学してくる中、教員同士が連帯し、生徒の対応や管理を担任の責任ではなく、全教員で責任を持ち、皆で生徒に関わるスタイルで学校運営が成されました。そうすることで、先生方に心理的な余裕が生まれ、教員同士で助けを求めやすくなる環境が確立し、このことが巡り巡って、子どもたちが健やかに安心して成長できる環境を作り出すことに繋がったそうなのです。

宮崎東高校の定時制には、大空小学校のように、普通科では馴染めなかったり、様々な事情を抱えて登校が難しい生徒たちも多く来ます。そのような環境の中で、指導側が、個性の異なる生徒一人一人に真摯に向き合う姿勢、生徒がより良い未来を歩むために何が必要か、先生方が絶えず研究し、「探求」しようとする熱量を、私は現場を訪問した際に感じました。 “自分”という、唯一無二の個性と、とことん向き合ってくれ、自分の人生に必要な鍵となるものを共に模索してくれる存在がいることが、学びに来る生徒にとって、本当の意味での「学び」に繋がるのではないでしょうか。

この度の研修を通して、上記の点を踏まえて今日の日本の教育を考えた時、「指導される側(生徒)」と同じくらいに、「指導する側(教員)」の「探求」が、多くの現場で不足していると思いました。また、指導する側の姿勢が、結果的に指導される生徒の姿勢をも変化させる可能性を感じました。教員側が「探求」することを可能にする、より柔軟な政策や現場改革が今後必要だと考えます。