在籍/修了

在籍

入学年度

2016-04

研究科

教育学研究科

専攻

総合教育科学専攻

コース・系等

比較教育社会学コース

研究課題

以下では修士課程における研究課題と博士課程進学以降を見据えた研究課題とをわけて記述する。なお、ここでいう障害は主に身体障害についてである。
 1990年ごろから、障害学や障害の社会学が日本においてもにわかに活気付いてきた。それらはイギリスでの理論的な成果を参照しながらも、日本における障害者運動の成果の上に築かれてきた。障害者運動は1970年代に隆盛し、以後今日まで続いてきたが、その成果は学問への刺激にとどまらず、障害のある人たちが人間にふさわしい尊厳を保ちながら暮らしていくために必要な法整備などを整えてきたように現実の社会の変革という点で重要なものであった。
 私の修士課程における研究課題は、ある障害者運動の事例研究である。「たんぽぽ運動」という、1973年の奈良県において、重度とされる肢体不自由児の母親たちが中心に始めた障害者運動を事例とし、その1970年代の歴史を再構成することを目指した。「たんぽぽ運動」について簡潔に紹介しながら、障害者運動研究における本研究の意義を示そう。
 「たんぽぽ運動」は、障害児の母親たちが、養護学校卒業後に子どもたちが過ごすコミュニティをつくろうとして20名ほどで始めた。1970年代のうちに、最も多い時期で全国に4500名の賛同者を持つ「市民運動」へと成長していく。ここで、「市民運動」とは社会運動論や市民社会論で用いられる語としてではなく、「たんぽぽ運動」が自己言及する際に用いた言葉をそのまま引いている 。「たんぽぽ運動」において「市民運動」の語は障害者やその家族に限られない人々が対等な「市民」として障害者問題を引き受けて展開する運動という意味で用いられてきた。このことは、これまで障害者運動が、障害者の親や、そして「青い芝の会」などが主導した自立生活運動などでは障害者自身を中心として担われてきたことを踏まえると、注意を惹かれるところである。同じく1970年代に隆盛した自立生活運動においても、障害者ではないとされる人々—「健常者」らが参加していたが、そこでは常に、障害者の主体性が健常者によって侵される危険が意識され、運動の参加者が対等な立場に立つことは目指されていなかったどころか、むしろ忌避されていた。こうした、これまで描かれてきた障害者運動の状況を踏まえれば、参加者が対等な「市民」という立場で取り組むことをうちだした障害者運動である「たんぽぽ運動」の歴史の再構成に取り組む本研究には、既存の障害者運動の歴史研究においては記述されてこなかった事象を書き加えるという意義が認められる。
 修士課程では、「たんぽぽ運動」の1970年代の歴史を可能な限り再構成するという関心を持ちつつ、「たんぽぽ運動」が対等な「市民」によって担われることを目指した点に注目し、「たんぽぽ運動」が母親の運動から「市民運動」となっていくプロセスや意味、そこから生まれる運動実践を明らかにすることを目標に研究を進めた。修士論文を書き終えた現在、本研究の問い/回答について、主専攻の指導教官である仁平典宏先生からは「既存の障害者運動史研究が捉えていなかった部分を、確かに捉えている」との論評をいただいており、当初期待された意義に応えることができたと考えている。
 博士課程では、修士課程での研究成果をさらに発展させていく。その発展可能性として現在2つの方向性を想定している。1つには、修士課程で行った事例分析から、更に抽象度の高い領域で理論的な含意を取り出していくことがある。この時、「共生」をテーマに、市民社会論などを参照していくことが現在の見通しである。
 もう1つの方向性として「障害と芸術」というテーマにおいて知見を生み出していくことが挙げられる。このテーマは「たんぽぽ運動」の研究に際して、隠れたテーマとしてずっと抱いていた。というのも、「たんぽぽ運動」は音楽や文学、芸術などの文化的な方法を通じて運動を展開してきたからだ。
 「たんぽぽ運動」から派生して、1995年に「エイブル・アート・ムーブメント」が起きる。「エイブル・アート・ムーブメント」は芸術を通じてよりより社会を築こうという運動であり、その中で障害者の芸術表現を通じた社会の啓発や障害者支援が取り組まれてきた。その反響は大きく、「エイブル・アート・ムーブメント」をきっかけに、機能訓練などとは別の意味を込めた芸術文化活動を福祉作業所が導入したり、NPO法人などの形で障害者の芸術文化活動支援を行う団体が生まれてきた。行政に目を向ければ、厚生労働省による「障害者の芸術活動支援モデル事業」「障害者芸術文化活動普及支援事業」の実施など、2020年のオリンピック・パラリンピックを追い風に障害者の芸術文化活動支援により一層の力が入っており 、文化政策と福祉行政との接近が起きている(川井田 2013)。このように「たんぽぽ運動」にとどまらず障害と芸術をめぐる社会の動きは目まぐるしい。こうした社会の動きの由来を辿るという意義が実は修士論文に見出され、博士課程以降では「障害と芸術」のテーマのもとに知見を生み出すことを目指している。そうした見通しの元、現在、障害者芸術が生み出される場—アトリエなどにてボランティア/フィールド調査を行っているほか、芸術社会学について学んでいる途上である。
 整理すると、博士課程における研究課題として、障害者運動を切り口とした「共生」というテーマに対する理論的検討と、「障害と芸術」とが挙げられる。

参加動機・キャリア構想

IHSにおいては、様々な分野で書籍にとどまらない学びの機会が用意され、また学生である私からも提案することが開かれている。IHSでの学びは、学問的多様性に富み、目の前の現実から考えていくことを後押ししてくれるものだと感じた。このことが私の参加動機であり、また実際に、文献や講演にとどまらず、個人ではアクセスしきれないような場所・人々との出会いからの生きた学びを提供していただいてきた。
 キャリア構想について。私は、学問が人類に対してもちうる意義を期待するとともに、調査において出会う活動家のはたらきについてもまた、社会貢献以上の意味を感じている。私にとって、学問をするということ、そして現場で活動をするということ、どちらも魅力的で参加したく思うところなのである。また質的な調査を行なっていることも手伝って、学問と現場での活動との間に明確な線引きをし難く感じる部分もあり、学問にも現場での活動にも関わっていくことが、自身の興味関心(障害者運動や芸術。より広くは、人びとの共生である。)を追求する際に自然なキャリアの有り様として浮かんでくる。。
 現在、研究をしながら調査先でのボランティアを行なったり、障害のある方のアトリエに出かけたりしている。また来春には介助者として活動できるよう準備をする予定もある。このことは自らの身体まるごとで、きれいごとではない「共生」を考えていくために欠かせないように思うのである。さて、今のこうした生活は、大学と、現場とを行き来するキャリアの出発点である。一方、学生の間は研究に重点を置き、今後の礎となるような博士論文を生み出すことが最大に優先される。卒業後は、官民における障害者運動、障害者芸術をめぐる様々なアクターとの関わりをより深めていきたいと考えている。

キーワード

社会学, 障害学, 障害, 芸術, 歴史研究, 質的研究, 社会運動論, 市民社会論

ステータス

修士1年

ステータス

修士2年

ステータス

博士1年