教育プロジェクトH 生命のポイエーシスと多文化共生のプラクシス

ユニット
「価値・感性」+「格差・人権」+「日本」+「東アジア」+「ヨーロッパ」+「中東・アフリカ」+「アメリカ・太平洋」
代表
梶谷真司

このプロジェクトは、人文学の素養を軸にして、実社会の様々な場面で現れる共生の問題に実践的に取り組む人材を育てようとするもので、本リーディング大学院プログラムの核となるプロジェクトである。とりわけ生命や環境、市民社会、多文化共生を中心的なテーマとしてとりあげ、文理の領域を統合した視点から現場での学びを重視した研究活動を行う。自己と他者との間に横たわる、国家、民族、地域、世代、ジェンダー、言語、教育などさまざまな意味での境界を問い直すことが現代社会の課題の一つである。人間中心的な思考についても見直しが求められている。当プログラムでは生命や環境を軸に芸術や建築など文化的創造物の再定義を試みたり、食と市民社会をテーマに多文化共生、地域再生、環境保護の現場に実際に赴き関わったり、グローバル化による文化的多様化・多元化のなかで「他者」との境界を再創造=再想像するアプローチを模索してきた。今後も「多文化共生」と「生命」に関わる現代的問題を有機的に関係づけながら、現実の社会で学問的な資質をもって新しい知と社会の地平を開拓し、実践的な活動を通して社会に関わる人材を育成する。

教育方針としての「共同の学び」と「現場での学び」

今日のように、多文化・多元化が進行する社会では、既存の専門の学問や技術からのアプローチでは限界がある。そこで起こる様々な問題や課題に対処するのに求められるのは、こうした現実のなかでそのつど必要な知見や技術、協力者を見定め、結びつけ、ともに活動し、答えを見出し、新たな社会を作っていく力である。そのような資質は、大学のなかにいて自然に身につくものではない。様々な分野の教員や学生、企業やNPOなど実社会で活躍する人、対処すべき問題の当事者とともに互いに学び合うことが重要である。しかもそれは、それぞれの課題や問題が発生する現場に自ら関わることによって、もっとも効果的かつ発展的に学ぶことができる。この「共同の学び」と「現場での学び」を徹底することで、文理の領域を有機的に融合し、理論的知識と実践的行動力を兼ね備えた、統合人間学の理念を体現する人材を育てていく。

ユニットとしては「価値・感性」と「格差・人権」というテーマを、「日本」、「東アジア」、「ヨーロッパ」、「中東・アフリカ」、「アメリカ・太平洋」という地域を横断し、授業では戦争や難民、格差・差別、宗教的摩擦、学校教育、農業遺産といったフィールドを実践的に掘り下げながら、その理論的補完として身体や認知、歴史、記憶、翻訳、共感といった概念を検証する。

プロジェクトに特有な授業例

多文化共生・統合人間学演習Ⅰ(「価値・感性」ユニット)

「都市の生命と文化表象を踏破する」
この授業では、生命体としての都市を言語構築物としての文学のなかに探し求める小旅行(エクスカーション)を試みたい。変容し続ける都市を、歩き、移動し、横断する人間の感性と身体がどう感知し、認識するのか。それらが言語表象としてどう浮かびあがっているかを、変貌極まりない19世紀のロンドンを描いた小説のなかに分け入って考察してみたい。疎外された人びと、抑圧された存在に着目することで、倒錯する都市への視線、実存的関係性を考えてみたい。

多文化共生・統合人間学演習II(「格差・人権」ユニット)

「都市と地方の格差と共存」
都市と地方の間には、なぜ格差が存在するのか。それは産業構造、経済、環境、教育、人権、政治など、様々なレベルの問題と絡み合ってきた。この演習では、担当教員が参加学生とディスカッションを行うなかで、格差という総合的複合的な問題について思想的・歴史的に考察する。課題文献の読解や、外部講師を招いての討議も企画される。農業をはじめとする産業や、共同体の特色や規模といった社会構造、さらには環境問題や学校教育との関連において、都市と地方の関係を様々な角度から検討し、研究者だけではなく、国内外の現場で活躍する専門家と連携して実践的な知を共有することをめざす。

多文化共生・統合人間学実験実習V(「生命のポイエーシスと多文化共生のプラクシス」プロジェクト)

「多文化共存への問い──東アジアの近代」
東アジア地域の大学と連携し、共同ワークショップの開催等を通じて、近現代における東アジアの歴史、文化、社会について、「想像力」をキーワードに多角的に取り組む。2018年度は、成均館大学、清華大学などの大学院生とのワークショップを実施する。