五ヶ瀬・高千穂研修報告 教育を通した地方創生2

多文化共生・統合人間学プログラムM1 呉映月

2022年9月24日から27日にかけての4日間、五ヶ瀬・高千穂研修が行われました。本研修では、五ヶ瀬中等教育学校の探求学習に協力し、地域と学校の関わりについて学びました。また、先端研の自動運転の社会実装のプロジェクトの協力を得て、「移動」をテーマとする科学技術コミュニケーションの哲学対話を高千穂において行い、テクノロジーを地方創生にどのように生かすかを現地の人々たちと一緒に考えました。

研修初日となる9月24日には、熊本空港に到着した後、高千穂町役場の田崎友教さんの案内で、熊本県阿蘇市の大観峰の観光をしました。この後、田崎さんの車で高千穂へ移動し、その次の日の打ち合わせをしました。

研修2日目の9月25日、午前中に高千穂町に鎮座する天岩戸神社を訪れ、天照大御神様のお隠れになられた天岩戸と呼ばれる洞窟を拝覧しました。午後から、高千穂高校に訪問し、図書館で「哲学対話×サイエンスコミュニケーション 自動運転が実現した未来を語り合おう」という活動を行いました。自動運転や科学コミュニケーションについて、東京大学生産技術研究所の松山桃世さんの説明を聞いた後、町民の方々と哲学対話をし、テクノロジーと社会の関係、自動運転の問題と可能性、現地の方々にとって理想的な交通などについて活発的な議論を行いました。

研修3日目の9日26日、午前中に五ヶ瀬中等教育学校に訪問。給食を食べた後、3年生・4年生・職員合計80人とともに「問いのワーク+哲学対話」に参加しました。まず、梶谷先生が「哲学対話」のルールを説明しました。そして「19歳のあなたへ 失敗する権利 人間にはある」というテクストを対話の題材にして、グループワークによって問いを出し、問いを決め、そして問いについて意見を交わしました。

研修最終日の9月27日、朝9時に五ヶ瀬中等教育学校へ行って授業の見学をさせていただきました。この後、5年生の学生さんと共に梶谷先生の「書き方」講座を受けました。グループ内でテーマを決め、問いを出し、ストラクチャーを作ってから発表しました。午後には、太鼓、書道、自主研究など、学校の課外活動の見学をさせていただきました。その後、五ヶ瀬の重要無形民俗文化財である荒踊りの解説を伺い、宮崎県の有形文化財に指定されている三か所神社に訪れた後、東京に戻りました。

特に印象に残っているのは、学生の主体性を引き出す教育の重要性ということです。では、どのように学生の主体性を引き出すのか――今回の研修を通じて、生徒を同じ人間として尊重し、平等に関わることが大切だと分かりました。研修の事前勉強会には、梶谷先生が笑いながら、「中高生をなめたらいけない」とおっしゃったが、今回の研修で中学生・高校生たちとの交流やグループワークを通して、生徒の方々を自分の意思や能動性を持っている立派な人として尊重すべきということを実感するようになりました。

「哲学対話」において、学生さんの考えの鋭さや批判性をよく感じました。例えば、研究3日目の「哲学対話」のテクスト「19歳のあなたへ 失敗する権利 人間にはある」に対して、学生さんがそのまま安易に作者の観点を受け入れるのではなく、作者の真の意図は何か、勉強することと優しさの関係をどのように捉えるべきか、本当の優しさとは何かなど、たくさんの興味深い問いを出し、議論を深めしました。なぜ哲学対話により生徒たちの批判性が引き出されたのか、それは哲学対話において、五ヶ瀬の学生も職員も東大の先生も、年齢も社会的地位も問わず、誰もが尊重されていたからだと思います。哲学対話には8つのルールがあります:①何を言ってもいい。②人の言うことに対して否定的な態度をとらない。③発言せず、ただ聞いているだけでもいい。④お互いに問いかけるようにする。⑤知識ではなく、自分の経験にそくして話す。⑥話がまとまらなくてもいい。⑦意見が変わってもいい。⑧分からなくなってもいい。この8つのルールの下に、平等な対話のできる環境が作られました。

アリエスが明らかにしたように、子ども期という見方は近代特有のものであり、子どもと大人の区別は社会的に構築されてきました(『<子供>の誕生:アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』みすず書房、一九八〇年)。近代以来、子供は未熟の存在で、保護・管理する対象として認識されています。しかし、子供(特に青少年)たちにも問う・思考する・行動する力がある、ということも無視できないでしょう。そして今まで軽視されてきたその力を引き出すことが今の教育の大きな課題ではないかと考えております。

今回の研修には、「哲学対話」に参加して高校生の方々と交流し、持続可能な社会を可能にする教育の現場を見学することができ、非常に貴重な経験になりました。そして、日本に来たばかりの外国人として、色々な「初めて」を経験する機会をいただき、大変感謝しております。

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