2020年度IHS春学期実験実習II:起業について考える

熊谷 歩真

活動期間:6月10日~8月31日

今年は, 新型コロナウイルスの猛威もあり, 多くの人がその影響を受けている。翻って学内でも対面(オフライン)での授業や活動が出来ない状況にあった。その為, 今年度はオンライン上で「ヴァーチャル研修」という形で, 実習を実施した。

 本プロジェクトは, 主にオンライン上での交流や文献研究を通して, 「起業」を1つのキーワードに, 各メンバーが興味・関心のあるテーマに沿って自由に研究活動を行い, メンバ内で共有した。以下, ①簡単に各自の研究テーマを列挙し, ②筆者が調査した内容の報告, そして③今後の本プロジェクトの展望について述べていく。

  • 各メンバーの研究テーマ

趙 誼

1.外国人が日本で起業する際に直面しうる困難とは何か?

2.上記の困難な状況を踏まえた上での独自の起業アイディアの考察について

李 佳

1.文系大学院生が自らの研究を起業という形で社会へ還元する場合、どのような可能性があるか? 

2.ビジネス利益より社会利益を優先する企業がどのような組織なのか?また、起業することでいかに社会貢献とつなげなれるか?特にビジネスの形を通じて資金から人材まで様々な側面から社会の力を引き出し、ある社会課題の解決を目的とする社会的企業(social enterprise)についての調査

3.芸術分野での起業に関する事例検討(秋学期のテーマ)

熊谷 歩真(筆者)

1.そもそも起業をどのように行うのか?

2.起業のプロセスと家庭環境(人間関係)の関係性について

  • 筆者の研究の報告

私自身, 将来起業する事を考えている為, 本プロジェクトにおいて, 「そもそも起業をどのように行うのか?」という個人的関心の下, 主に書籍や知人の起業家に話を伺う形で調査を実施した。その中で, 起業を実際にするに当たって大切な考え方や事例を多く知る事が出来た。そして私は今回の調査を通して, 起業の始め方だけでなく, 事業の継続の難しさを実感した。そしてその難しさの中でも特に学びになったのが, 「起業のプロセスと家庭(人間関係)」がいかに密接に関わっているかという事である。その為, 本報告書では主に「起業のプロセスと家庭(人間関係)」について大きく2つの視点から述べたいと思う。

起業という営みは, 決して社会だけに影響する訳ではなく, 家庭や, 周囲の交友関係のある人間にも同時に影響を与える。個人的には, こうした側面はなかなか表立っては知る機会がなかった為, 大変勉強になった。起業をすれば必ずいつか困難に直面するが, その困難がいつ, どんな形で家庭や社内, 人間関係に表れるのか, そしてどのようにそうした問題を捉え, 対処していくべきなのかが今回の調査を通してある程度理解出来るようになった。

会社も人間と同じように, 赤ん坊から成人に成長していく際に, その発達段階特有の問題が生じる。会社における発達段階は, 下記の成長曲線(MBA)で捉える事が出来る。本報告書では, (a)「成長曲線におけるそれぞれの特徴, 特に一番変化や問題の起こりやすい導入期~成長期の家庭や人間関係に生じる問題」, (b)「会社の成長に不可欠な4人の人物に焦点を当て, 人間関係の観点から会社が倒産する3つのパターン」についてまとめる。


※尚, 今回は起業家は男性(夫)とする。

出典:成功者の告白

(a).各段階の特徴

導入期

●特徴

成長曲線の最初の段階で, 製品やサービスが市場に投入された初期の段階で, この時期は製品やサービスに対する認知度が低く需要はあまりない。また導入期には, 市場での認知拡大を目指して数多くの広告を打ったり, 設備投資をする為、多くの製品・サービスで赤字になる事がほとんどである。

●家庭との関連

夫婦の関係は, この時期は非常に良好である。立ち上げ時期は一番辛い時期でもあるので, 家族で一致団結する事が非常に多く, これまで以上に家族の絆を実感しやすい。また既存の交友関係は限定的になりやすい。

成長期

●特徴

成長期は, 成長期前期と成長期後期に分ける事ができ, 市場に参入するなら成長期前期が狙い目である。成長期になると市場で製品やサービスの認知が広まり, 需要も増え, 成長曲線も急激に上昇する段階である。宣伝等をせずとも勝手に顧客が増えていく時期でもあるため, 導入期と同じような費用が発生せず, 売上と同じく利益も伸びていく。また消費者のニーズが高まることによって, 競合他社が似たような製品やサービスの提供をし始める時期でもある。この段階では, 製品に新機能を追加したり独自のサービスを提供するなど, 他社との差別化を図ることが求められる。

●家庭と人間関係との関連

導入期~成長期前期:夫婦関係は徐々に悪化し家庭に歪みが出始める。一般的にこの時期は, 夫が頑張れば頑張るほど, 妻は調子を崩し始める。また, 子どもがいる場合は, 子どもを通して, 家庭の歪みが表出される(例えば, 子どもが原因不明の病気になる, 事故にあう, 不登校になる, 過度に優等生・劣等生を演じる等)。

成長期後期~成熟期:仕事は好調だが, 社内での人間関係で問題が勃発(社内コミュニケーションの減少, 単純作業のミスの続出, 社員の病欠や社員の離職率の増加等)。家庭は, お互い期待しないことでバランスを取る諦めムードになっている事が非常に多い。また, 会社としても社内の問題を解決できるかどうかで成熟期に移行できるかどうかの大きな分かれ目になる。

出典:成功者の告白

成熟期

●特徴

消費者のほとんどに製品やサービスが広く認知される時期で, 成長期と同じような売上, 利益の上昇は期待できないが, この段階では安定した利益が確保できるようになる。あるいは, 競合他社との価格競争がヒートアップして, 値崩れを起こし利益確保が難しくなってしまうこともあるため, 新しい事業アイデアが必要な時期でもある。

衰退期

●特徴

製品自体が消費者ニーズに合わなくなったり, 既存製品に代わる新製品・新サービスの誕生により, 売上や利益が成長曲線において下降を始める時期である。この時期は, 製品の供給が市場の需要を上回るため, 製品やサービスがどこにでもある飽和状態となる。完全な価格競争となり安売りが始まる。

(b).4人の人物と3つの会社の倒産パターン

(b1).4人の人物

会社が成長し, 事業を継続していく為には、以下4人の役割が必要だとされている。

起業家(タイプ)
長期的視野で物事を捉え, 様々なアイデアを生み出す人で創造力があり、そのアイデアを実現しようと行動する。また新しいもの好きで自由と混乱を望むタイプでもある。

実務家(タイプ)
起業家タイプの人間が出したアイデアを具現化していく人で起業家タイプのサポート。このタイプは, 短期的な視野で仕事や日常業務を効果的に回すような人材で, 例えば営業をしたり, 商品の仕入先を決めたり, 配送システムをつくりあげたり、顧客の問い合わせに対応する体制を構築したりするような人を指す。

管理者(タイプ)
いわゆる経理部門がこのタイプに当たる。日常業務をよりシステム化して、短期的な効率を重視するため, 規則と安定を望むタイプでもある。

まとめ役(タイプ)
各々の人達をまとめるタイプで, 例えば, 恋人, 妻, 女性社員, ムードメーカー, 問題を起こす社員等が挙げられる。

出典:成功者の告白

この4人のタイプは, 会社が成長曲線のどこにいるかによって活躍するタイミングが異なり, このタイミングやバランスが崩れると会社は倒産の方向に向かいやすい。以上は, 会社の成長段階に合わせた, 活躍する人材の適切なタイミングについてまとめた。次に会社が倒産する3つのパターンについて述べる。

(b2). 3つの会社の倒産パターン

(1). 起業家は実務家を雇い, 会社は徐々に大きくなるが, 実務家(タイプ)一人では事業を行う際に行き届かない問題が出てくるため「もう限界です。人を雇いましょう」という状態になる。ここで, 管理者タイプが登場。起業家タイプや実務家タイプが苦手とするような面倒な雑務を管理者タイプにお願いするようになる。雑務が減る事で実務家に余裕ができ, 営業に力を入れられるようになるが, その矢先に, アイデアマンでる起業家は様々なアイデアをどんどん出していく。それによって, 社内は混乱し, 不安定になり, 社員が離職したり、病気になったりする。この時期に単純なミスも増えるという悪循環に陥り, 顧客からのクレームも増える。起業家はたまに会社に来るとアイデアを述べ, より混乱させる。実務家と管理者が起業家の批判をし, タッグを組んでクーデターを起こそうとする。起業家は社内の状況をよく見た上でアイデアを出さないと, 最悪倒産してしまう事態にまで発展する。

(2).2つ目パターンは(1)と途中までは同じ状況だが, 実務家が謀反を起こさないケースである。起業家にNoを言える人物が少ないため, 起業家の独走を許し, 管理者不在になりやすく, 管理部門が弱体化していく。成長期前期まではこの状態で問題ないが, 後期~成熟期では社員の意思疎通を円滑にしたり, 効率的に情報共有等が出来るシステムを構築する必要があるため, そのような役割を担う管理者がいないと大きな問題となり, 最悪倒産に陥る。

(3).3つ目は, 実務家と管理者の権限が強すぎるパターンである。起業家の混乱させる態度に嫌気がさし, 起業家を外につまみ出すケースである。これにより, ルールによる厳罰化が進み、起業家の新しいアイデアを生み出すエネルギーが奪われてしまうために, 現状維持のスタンスに陥ってしまい、最終的には退化し始める。そのため, 事業は継続しても, 持って2年程度で倒産してしまう状況になる可能性が高い。

以上, 非常に簡略化されたパターンではあるが, 人間関係によって倒産するパターンは大体この3つのどれか(あるいは組み合わせたもの)に当てはまる場合が非常に多いという。もちろん例外も存在するが, 例外に注目する以上に, このような典型的なパターンを知らない事で苦しい思いをする起業家も多くいる事が今回の調査で分かった為, まずはこうしたパターンを知る事が非常に重要だと考える。

また, こうしたパターンから適切に抜け出すために必要なのは, ①社長自身が成長のシナリオを知っておくことである成長期後期の会社をシステム化する間は, 起業家はなるべき社内の状況を観察し静観し, 外に出て次のアイデアの種となるネタ探しをすると良い。そして, ②社長が最終的には起業家からまとめ役になる事で, 社員一人ひとりを育て, 彼ら自身がまた, まとめ役になるよう理念や哲学を伝えていく必要があることが分かった。

知識の有無で, 起業のあり様や諸問題への捉え方も一変するため, これまで述べてきたパターンは, 起業する上で知っておくべき重要な考え方であると言えるだろう。

  • 今後の展望

本プロジェクトは,これまで通り, 各自それぞれの関心に沿って調査を進め, 自らの起業についての今後の方向性を明確にしていく。さらに、関連分野の起業者から直接お話を聞く機会も作り, より充実した調査内容としてく。そして最終的には「起業」に関連したイベントの開催を計画している。オンラインワークショップなどの形を通して、IHSプログラムに所属する学生だけでなく, 起業に関心のある学外の人たちとも一緒に参加できるイベントを作ることを目標とする。具体的な日時・内容はまだ未定だが, 本プロジェクトのメンバーである李 佳の提案で,英・中・日など多言語イベントでの開催を検討している。

【参考文献】

神田昌典, 成功者の告白, 講談社, 2006, 346p.

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