多文化共生・統合人間学実験実習Ⅱオンライン交流研究会

佐藤寛紀、中川亮、趙誼、Quini Joseph、朴美煕

1. はじめに

 人と人との交流の形は、情報通信技術の発展とともに変化している。特に、1990年代以降のコンピュータとインターネットが普及した社会では、それらを介したオンラインでの交流が一般的に行われている。例としては、遠距離間のビデオ通話や、ソーシャルネットワーク上での多様な情報共有、もしくは、仮想空間上でのアバターを用いた他者との交流などが挙げられる。そして、2020年初頭に端を発するCOVID-19のパンデミックは、交流のオンライン化を急速に進めている。

 人と人との交流は社会の基盤であり、交流のあり方の変化は社会の変容に繋がると考えられる。本研究会では、このような社会変容の発端となりうる交流のオンライン化に関して、オンライン交流がどのような性質を有しているのかについて分析を行った。具体的には、先行研究および公開されている社会調査結果のレビューと、実際にオンライン交流イベントを開催し、交流の様子の観察を行った。本報告書では、まず、先行研究のレビューに基づきオフラインとオンラインでの交流を比較し、オンライン交流が有する特徴を考察する。次に、本研究会が実施したオンラインでの哲学対話およびオンライン飲み会について報告し、その観察結果と考察を述べる。最後にこれらの総括を行う。

2. オフライン交流とオンライン交流の差異:物理的側面

 まず、オン・オフライン交流における物理的側面とその違いへの理解を深めるため、飲み会という一例を取り上げ、それらのメリットとデメリットをまとめる。オンライン飲み会のメリットとしては、1)場所、移動、時間の制約から解放される、2)他の参加者に同調することなく、自分のペースで飲食することができる、3)自分の好きなものを飲食できる、4)気まずい人と同席しなくても良い、5)容姿を気にする必要性が低く、スッピンでも参加できる、などが考えられる。一方で、そのデメリットとしては、1)飲みすぎる、2)オフラインよりも長時間になりがちである、3)プライベートが暴露されていまう、4)何を飲食するか自分で選ぶ必要がある、5)場を共有する感覚が薄い、などが考えられる。オフライン飲み会のメリットとしては、1)直接対面することができる、2)相手の感情や場の雰囲気を共有できる、3)通信電波などの技術的制約がない、4)飲食物を自分で用意する必要がない、5)人数制限がない、などが挙げられる。そして、そのデメリットとしては、1)終電や終わりの時間を機にする必要がある、2)半強制的な雰囲気で負担が大きい場合がある、3)場所や飲食物を好きに選べない、4)セクハラやパワハラが起きる可能性がオンラインより高い、5)自分のペースで飲食できない、などが想定される。

 従来のオフライン飲み会は所属するグループの親睦を図り、仕事をより効率良くする趣旨の下で行われてきた。また、職場での距離感をなくし、直接同僚と触れ合い、相手の感情やその場の雰囲気を読み取ることにより、互いに仲良くなりやすい環境が造成されていた。一方で、近年では、世代、文化、性別などの違いから、上述したようなオフライン飲み会の問題点が表面化し、飲み会の本趣旨とは異なる方向へと移行する傾向が見られている。「若い世代の飲み会離れ」や「ちょい飲み」、韓国の「ホンスル」[1]などがその例として挙げられる。

 それに加え、最近ではコロナの影響により、オフライン飲み会の限界を克服する一案として、オンライン飲み会に対する肯定的な動きが見られる。例えば、今までオフライン飲み会に参加するのに大きな負担の要因とされた、場所、移動、時間という制約は情報通信技術(以下、ICT)の普及によって改善された。また、従来のオフライン飲み会では個々人の事情や日程に関わらず半強制的な側面が強かったのに対し、オンライン飲み会では場所、時間、メニュー、コストなど大半のことが自分のペースでコントロールできるようになった。このような飲み会への新たな試みは、オンラインならではの物理的要素を上手に活用する上で、有意義になるものである。

 しかしながら、まだ試行錯誤を繰り返すオンライン飲み会に対する不安の声も少なくない。例えば、「果たして同じ空間や雰囲気を共有することは可能だろうか」、「オフラインよりも長時間飲んでしまい、結局飲みすぎにつながるのではないか」、「相手のモチベーションや集中力が下がるのではないか」などである。

 以上のように、オン・オフライン飲み会におけるメリットとデメリットはICTから成る物理的要素によってもたらされる場合が多い。もちろん、オフライン飲み会文化をオンライン上で無理やり実現せず、オンライン飲み会ならではの新たな飲み会文化を純粋に受け止めることも大事であるが、上述したようなオンライン飲み会への疑問や懸念をいかに解決できるかによって、オンライン交流の一種であるオンライン飲み会が今後の新たな文化として定着されるか否かを左右することになるだろう。

3. オフライン交流とオンライン交流の差異:心理的側面

 人と人の間のコミュニケーションは心と身体の相互作用によって成り立ち、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚の五感に加え、言葉や「空気」を通しての感情、考えや意志の伝達が行われる。オンラインでの交流はこれまでメールやチャット、SNSなどの比較的平面で一方的な媒体を通していたため、互いの意図や感情が読み取りにくかった。それに対してZOOMなどのビデオチャットは視覚が用いられることによって相手の表情や動きが確認でき、より自然で対面的なコミュニケーションに近づいた。静的なやり取りに動的要素を加えることで目に見えない感情的なつながりを深める効果がある。

 ただ、依然として制限がある。対面での会話は「うなずいたり」「首をふったり」「呼吸」など非言語的なシグナルで成り立つ。このような自然に発生する合図が欠けているため意気投合が難しい。その一方、米国で行われたいくつかの研究で特に内向的、うつ病を患っている人にとってビデオチャットは心理状態の改善に寄与するという結果を得ている。ある実験ではビデオチャット利用者の場合、うつ病率が半減したとも伝えられている2。バーチャルであるものの同じ空間にいることによって互いの存在感を互いに認識できるため、その体験の質が高まると考えられている3

 飲み会のような懇親会とは特に決まった趣旨がなく何らかの共通のつながりがある人達が集まり交流する一種の口実ではあるが、この「存在感」はなくてはならないものである。ビデオチャットはそれをオンラインである程度体現する。特に、ネット世代と言われる若年層の間では「煩わしさも伴うリアルな関係より、マイペースに交流できる空間4」を好むとの見方もあり、本来このような集まりに行くのを躊躇しがちな人でも気楽に参加できる機会をつくりだすきっかけになるかもしれない。

4. オンラインでの哲学対話の実施

 オンライン交流会・懇親会の様々な制約や特徴に関する研究会の総括として、2020年7月24日にオンラインで交流会を行った。オンライン交流会は2部制となっており、第1部では哲学対話、第2部では食事会を実施した。哲学対話は、第2部の飲み会・食事会に向けたアイスブレークとしての意義も持つ。参加者は第1部、第2部ともに共通で、研究会の企画者5名を含め、総計で11名の参加があった。

 本節では、第1部の哲学対話について、実施概要を簡単に説明した後、オンライン交流の一手法としての哲学対話が持つ特徴について述べる。

4.1 実施概要

 哲学対話は、2020年7月24日の19時から20時15分まで実施した。参加者は、企画者の5名と、企画者の知人であるIHSの所属学生6名の計11名であった。実施に当たっては、オンライン会議システムZoomを利用した。その結果、日本国外に居住する学生も1名参加することができた。

 Coivd-19の感染拡大が原因で、今学期のIHSの全体ガイダンスが開催されなかったため、参加者同士は必ずしも面識がなかった。そこで、哲学対話に先立って、まず質問ゲームを利用した自己紹介を行った。質問ゲームでは、自分以外の誰かを指名して所属や専門以外のプロフィールについてひとつ質問するルールとし、全員が一周した時点で哲学対話の説明に移った。

 5分程度で哲学対話の説明を行ったあと、事前に設定した「キャリア」というテーマについての問い出しを15分程度実施した。問い出しの結果浮上した「何がキャリアを構成するか?」という問いを出発点として、40分間にわたって哲学対話を実施した。

4.2 オンライン交流の一手法としての哲学対話

 これまで、筆者は都立高校や宮崎県などにおいて対面で行う哲学対話に参加してきたが、今回の哲学対話は、オンラインで参加する初めての機会であった。これらの経験とオンライン交流に関する一連の研究会を活かし、オンライン交流としての哲学対話が持つ特徴について以下では簡単に述べたい。具体的には、オンライン哲学対話の疲労感、オンライン哲学対話におけるターンテイキング、そしてオンライン哲学対話におけるパラ言語的コミュニケーションを取り上げる。

4.2.1 疲労感

 オンライン交流では、終電の時間など、移動に関する物理的制約がないため、しばしばずるずると交流の時間が延びてしまい、その結果疲労感が高まる。この疲労感を軽減する簡便な方策の一つは、あらかじめ時間を制限しておくことである。この方策は、哲学対話と非常に親和性が高い。

 哲学対話では、拙速な結論を求めることなく、わからなくなったことも含めて対話の成果として評価するというコンセプトが掲げられている。それは、結論を得て満足し、問うことをやめてしまうよりは、対話が終わらなかったことによる消化不良や物足りさこそが、次なる対話の原動力になると考えられているためである。そのための仕掛けの一つとして、哲学対話では40分~1時間程度で厳格に対話時間を区切ることが行われるが、オンラインという文脈ではこれが疲労軽減の方策にもなっている。

 今回、哲学対話中や、懇親会に移行した後も、疲労感をあらわにしたり、途中退出する参加者はいなかった。必ずしもそれが疲労感が軽減されたことの直接的証明となるわけではないが、一つの傍証にはなるだろう。

4.2.2 ターンテイキング

 哲学対話では、通常コミュニティボールと呼ばれる直径20センチ程度の毛糸製のボールを使用することが多い。コミュニティボールは、対話中に発言権を持っている人を明確にする工夫で、発言を希望する参加者は、手を挙げるなどして、まずコミュニティボールを受け取ってからでないと、発言できない。

 少なくともZoomを使用する限り、オンライン哲学対話では、コミュニティボールは使えない。代わりに、今回の企画では参加者リストから挙手してもらい、発言中の人物が自由に挙手した人の中から次の発言者を指名するという方式をとった。

 この方式をとると、挙手をしている参加者を確認するために逐一参加者リストを参照しなくてはならない。また、発言を希望する参加者も、参加者リストを開いて挙手ボタンを押下する必要がある。これらのプロセスは時間的には高々5秒程度であるが、そのために一度視線を対話から離し、一瞬思考を対話以外の場所に向けることになる。この時間がどれほど大きな影響を及ぼすかはわからないが、ターンテイキングのたびに対話から意識を離さなければならないとすると、それはデメリットであるといえるかもしれない。

 一方、オンライン交流の手法としての哲学対話には、ターンテイキングに関する長所もある。オンライン交流では、マイクが一度に2人分(メインの出力で1人、補助的出力に1人)の音声しか拾うことができない。その結果、参加者の中に延々と話し続ける人物がいると、会話に入りたくてもうまく入り込めないということが起こりうる。しかし、哲学対話では、コミュニティボールの仕組み(または、今回のように挙手→指名)がそういった発言者の偏りをわかりやすくしているため、この問題をある程度防ぐことができる。また、プライベートチャット機能を使用して、「耳打ち」のようなことをすることもできる。

4.2.3 パラ言語的コミュニケーション

 オンライン交流では、対面よりもパラ言語的コミュニケーションの幅が少なくなる。具体的には、姿勢や顔の向き、微妙な表情の変化、大きな手の動きなど、カメラに映らないコミュニケーションチャンネルはすべて失われる。これが原因で、対面での交流に比べて、オンライン交流では相手の心理的状態が読みにくくなっている。

 ただ、ふつう、哲学対話ではコミュニティボールを持って座りながら話すため、大きなボディランゲージは使わない。また、参加者は円を作って向き合い、全員の顔が見えるように座っている。対話するさいには、主に肩よりも上の部分に注目が集まっていると考えられるため、他のオンライン交流と比べると、パラ言語的コミュニケーションの大きなロスは少ないのではないだろうか。もちろん、匂いや音のように、画面を通して伝達することができないチャンネルについては、失われるままになる。そうした要素が、対面での哲学対話における参加者の一体感を醸成することもあるだろうが、あくまで補助的なものに過ぎないだろう。

 以上の簡単な考察から言えるのは、哲学対話の仕組みが、うまくオンライン交流の弱点と考えられる部分を補うように作用しているということである。オンライン交流の一手法として哲学対話がうまくいくとすれば、その一因はそうした弱点の補償にあるだろう。

5. オンライン飲み会・食事会の実施

 オンラインでの哲学対話に加え、第2部としてオンライン飲み会・食事会を実施した。以下に実施内容の概要と、オンライン飲み会・食事会の心理的・物理的性質に関する観察結果に関する考察を述べる。

5.1 オンラインイベント実施概要

 本企画の実施日程、実施環境などについては4節で述べた通りである。飲み会・食事会の雰囲気を出すために、参加者各自500円程度のおつまみを用意してもらうように事前にアナウンスした。イベント開始後、ほぼ全員が揃った時に、配布した同じバーチャル背景に変更するように呼びかけ、主催側から音楽を流した。

5.2 心理的側面についての観察項目

 心理的側面については下記4つの項目で観察した。

5.2.1ネガティブな感情の表明

 哲学対話中には、そこまでネガティブな感情表現はなかったが、その後の懇親会では、ネガティブな感情の表明はあったと見られる。哲学対話から飲み始める人もいれば、終始ソフトドリンクや飲まなかった人もいるため、後半に入れば入るほど、明らかに少し酔っている人と酔っていない人の会話の温度差が、次第に顕著になってきた。

5.2.2ポジティブな感情の表明

 懇親会に比べると、「キャリア」についての哲学対話が行われた際に、全員の発言や感情は、かなりポジティブであることは伺える。それは哲学対話に関して、事前にアナウンスされたルールにより、ネガティブな言動を発さないよう、ある程度規制されているからと言えるのであろう。他人の意見を否定する行為は、哲学対話での段階では見られなかった。

 また、バーチャル背景を揃えることにより、雰囲気が良くなり、楽しいという声をもらった。まるで、同じ場を共有したような気分であった。

5.2.3疲労感があらわれていないか/疲労感のあからさまな表明があるか

 序盤の哲学対話は予定より長く伸びていたこともあり、懇親会の開催が20時15分からとなり、懇親会自体も23時になっても続いていたため(懇親会は途中で退室可能)、後半は疲労感が表れていた様子であった。

5.2.4目線の動き(画面を見ているのか、どこか別のところを見ているのか)

 目線の動きについて、ほとんどの人はカメラ目線というよりも、画面を見ている感じの人が多かった(カメラの位置よりやや下の位置を見て会話していた)。また、タプレッド利用の人は、カメラの位置はパソコンと異なるため、目線とカメラの相対位置で見ると、右の画面を見ていたことがわかった。

5.3 物理的側面

 物理的側面については下記の7つの項目について観察した。

5.3.1 カメラの画角(どこまでカメラに収まっているのか)

 カメラの画角についてバーチャル背景を使用しているため、パソコンのスペックが足らずバーチャル背景を変更できなかった人以外、基本一瞬しか見られなかったが、カメラに写っている光景は大半各自の部屋もしくは書斎に見えた。

5.3.2 会話のラグがあるのか

 各参加者のネット環境によるラグの発生で、会話のラグがあったが、そこまで進行を影響することではなかった。また、会話のラグというよりも、一遍に一人しか話せないという制約があったため、会話のラグというよりも、発話のタイミングが被ってしまうことも見られた。この現象は特に、哲学対話後の懇親会で多く見られた。

5.3.3 発言と発言の間のポーズ

 哲学対話の際に、「次に話す人を指定する」というルールを設けたため、発言と発言の間のポーズとして、Zoom「手を挙げる」機能を用い、「手をあげている」人から選ぶので、とてもわかりやすかった。逆に、懇親会の際には、このルールなしで、自由に会話していたので、特に、参加者が徐々に退室していき、人数が5名ほどなったとき、どちらかというと自然なオフラインの会話に近しい印象が受け取れた。

5.3.4 会話の長さ

 哲学対話の時は、全員は割と「対話」に重きを置いていたことがあり、そして「次の人を指定する」というルールがあるため、会話の長さを各自でコントロール

しているように感じ、「バトンタッチ」という意識があったとも言える。

 一方で、懇親会の時は、比較的に特定な人がよく話すようになった。普通に飲んでいるので、一人それぞれ飲むペースや食べるペースがあり、それに関しては不自然なところがないと思われる。

5.3.5 会話の重なり

 哲学会話の時は、それぞれの「キャリア」に対する定義、印象と考え方を述べた。類似するところと異なる部分があったとしても、和気藹々な雰囲気であった。

 しかしながら、懇親会に入ると、話題が理想とお金の重要性になってしまい、意見の違いで、論争になりそうな瞬間もあった。

5.3.6 チャットや反応ボタン等を使っているか

 チャット機能は、主に対話に割り込みたくない時の連絡と、懇親会の途中で退室前の挨拶に使用されていた。「手を挙げる」という機能も、前述のように哲学対話中に利用したが、他の反応ボタンは使用していなかった。ただし、哲学対話の序盤に、本日論議する「問い」を決めるのに、ホワイトボート機能を使った。元々、哲学対話も懇親会もブレイクアウトセッションを利用する予定であったが、設定上のミスがあり、使用できなかった。

5.4 その他

 その他の傾向についての観察は、本節で解析していく。

5.4.1 特定の人に発言が偏っているか/ずっと黙っている人がいるか

 哲学会話では、最初の自己紹介から、問いの決定、対話まで、会話に参加している均等に発言していたが、自己紹介以外ずっと黙っていた人が一人いた。

5.4.2 カメラ・マイクをオン(またはオフ)にしている人数

 哲学対話中、原則、バーチャル背景を揃え、その一体感を出すため、カメラをオンするようにお願いしており、それについで全員応じてくれていたため、カメラをオンにしている人数は11人であった。ただし、全員がマイクまでずっとオンのままにすると、おつまみの咀嚼と、飲み物を飲む音や生活音などの雑音が入ってしまうので、話している人がいると、大半の人は自分が話さないときに、ミュートしている。(マイクをオンにしている人が2〜3人で、8〜9人がオフしている状態であった。

 懇親会中は、カメラ・マイクのオン・オフが自由なので、各々の気分によってオン・オフされていたが、基本参加者はカメラはオンにしてくれてはいるが、哲学対話の時に比べて、マイクを発言や雑音への配慮によるミュートは、少し減った印象であった。それで、懇親会の後半に咀嚼音や雑音が入っていた。

5.4.3 カメラ・マイクのオン・オフの頻度。ずっとマイクやカメラをオフにしている人がいるか? 

 カメラ・マイクのオン・オフの頻度に関しては、哲学対話の時に、カメラはオンにしているが、進行しやすいように、全員は自分が発言しない時にマイクをオフにし、自分が発言したい時に、「手を挙げる」という機能を利用し、指名されてから発話していたため、必要に応じてその都度オンにし、話終わったらまたオフにしていた。頻度としてかなり頻繁にマイクのオン・オフを行っていたと見られた。それはおそらくオンライン授業で身につけた習慣、もしくは心得たマナーと言えるであろう。一方、自己紹介以外、ほとんど発言しなかった人は一人いたので、その人だけは割とずっとマイクをオフしていた印象を受けた。

5.4.4 上記諸項目の時間による変化があるか

 最初の哲学対話の頃では、全員はかなりかしこまった姿勢であったため、カメラは常にオンにしたままだが、マイクは発話の番ではない時に、オフしていた。懇親会に入っても、まだそのスタンスで居続ける人がいたが、時間が遅くなるのにつれて、退室して行った人が増えていく中で、次第にマイクをオフにしたまま、ただただ聴いている感じの人と、マイクをオンにしていても、発話しない人が見られた。形として、懇親会の方がよりリラックスして、カジュアルな感じであったため、このような変化があると推測できる。

5.4.5 化粧や服装に気を使っている人がいるか

 この点に関してはこの度の実施では、確認できなかった。

6. まとめ

 本研究会では、人と人との交流のオンライン化が社会変容に繋がると考え、オンライン交流が有する特徴の分析を、先行研究のレビューおよび実際の交流の様子の観察によって行った。その結果として、オフライン・オンライン間の物理的・心理的差異を明らかにし、実際のオンライン交流を観察することで、オンライン交流を効果的に行う上での課題と施策を提言することができた。

 従来の交流の形であるオフライン交流との差異は、オンライン交流によって形成される新社会と従来社会との差異に繋がるだろう。ただし、オンライン交流に関する情報通信技術は未だ発展途上であり、今後その体験はよりリッチなものになる可能性を秘めている。例えば、近年、発展が目覚ましく、ポストスマートフォンとも言われているVR・ARデヴァイスの一般化は、オンライン交流が不得意とする存在感や身体性の獲得に寄与し、オンライン交流のデメリットである「場を共有する感覚」の希薄さや、非言語信号をもオンライン化できる可能性がある。今後、本研究会で明らかとなったオンライン交流の得手不得手に基づき、求められる技術・アプリケーションを考えていきたい。

 今回、実施したオンライン交流イベントでは、交流を効果的にするいくつかの施策を施した。まだ1回の実施実績しかないが、今回得られたデータは、今後オンラインでの社交イベントを開催する際の良い資料となるだろう。特に、地方や海外の方々と交流する機会が多いIHSでは、オンラインを活用した人々との交流が今後より活発に行われる可能性があり、その際には本研究会から得られた結果を基に、オンライン交流会を企画するのも良いだろう。そして、オンライン交流が効果的に行われるならば、現地に赴く研修時のみの一過性の交流ではなく、駒場と地方・海外間でリモートでの継続的な交流が行え、プロジェクトの可能性の幅が広がるだろう。

 COVID-19のパンデミックによる交流のオンライン化は一過性のものかもしれない。しかし、本研究会の結果が示すように、オンライン交流にはオフラインにはない利点があり、また、オンライン交流をより効果的なものとする手法は考案しうる。今後、IHSでのプロジェクトでは、オンライン交流を積極的に活用し、その可能性を探っていきたい。

1. 一人でお酒を飲むことの韓国語

2. https://news.ohsu.edu/2018/11/19/releases-20181119

3. Neustaedter, C., & Greenberg, S. (2012). Intimacy in long-distance relationships over video chat. In Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems. pp. 753-762

4. 植田康孝. (2018). ナイト・エンタテインメント概説<飲酒>居酒屋からオンライン飲み会への変貌と酒種ロングテール化. 江戸川大学紀要, 28)


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