「巣立ち風(社会福祉法人巣立ち会)研修」報告
高 琪琪

「巣立ち風(社会福祉法人巣立ち会)研修」報告 高 琪琪
日時
2017年1月25日(水)13:00 - 17:00
場所
巣立ち風(社会福祉法人巣立ち会)とその周辺(東京都三鷹市)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」
協力
社会福祉法人巣立ち会

2017年1月25日に、三鷹市にある社会福祉法人「巣立ち会」・巣立ち風(以下、「巣立ち風」と略す)を訪問した。巣立ち会は、三鷹市および調布市を中心に、精神障害者の退院促進や地域生活を支えるための活動を行っている。「巣立ち風」はその本部であり、就労継続支援B型事業、及び生活訓練事業を営む複合施設である。自身の専攻分野とはかけ離れていると言えど、報告者はイタリアでの精神科病院の完全閉鎖および地域中心型精神医療サービスの発達を知り、日本の精神医療の現状に対して興味を抱くようになり、この度の訪問参加に至った。

「巣立ち風」の中に入ると、フロア全体は日当たりも見通しもよく、精神障害という言葉とはまったく結びつかないような場所だった。私たちがまず案内されたのが二階のミーティングスペースだった。ホワイトボードに一週間の予定がぎっしりと書き込まれていた。朝のミーティングと帰りのミーティングと、メンバー全員の意思疎通を図る場が一日に2回設けられている。「巣立ち風」の利用登録者数が100を超えている。月曜日の早朝はメンバー全員の一週間の作業予定を決めることになっているため一番の賑やかさを見せているという。

ihs_r_3_170125_sudachi_01.jpg

「巣立ち風」で主に就労支援されている業種はハウスクリーニング等の清掃作業である。案内人の三宅さんは清掃作業の際に使用する器具、洗剤等について嬉々として語ってくれた。精神疾患を患うと体が重くなりやすく、ほかの業者に比べ作業時間を要するが、その分割安の料金で仕事を丁寧に仕上げていることから、口コミで評判が広がり、地域の方々からは清掃や草むしり、その他の家事手伝いの仕事も依頼されるようになった。

事業所の中で勉強会や講演、様々なプログラムが開催されている。「リカバリー・カレッジ」というセルフケアの場が設けられていて、その一環として、北海道浦河にある「浦河べてるの家」で生まれた「当事者研究ミーティング」も実施されている。当事者自身が仲間と共に、支援者とも連携しながら、自身の体験や困り事について話し合う(研究する)ことで、対処法のアイデアを見出し、それを生活の中に取り入れていくというものである。

巣立ち会の理念の一つとして、「自尊心をもって生きる」ことが掲げられている。実際、施設の中は明るい雰囲気に包まれていた。この日は作業場の席が約8割埋まっていて、メンバーの方々が和気藹々と内職に取り組んでいた。月曜日の作業場のスペースが足りないという話も黒川さんから伺った。

実際、研修参加者一同がメンバーの方と話しながら内職作業(柔軟剤の組み立て)を体験した。精神疾患を感じさせない話しぶりと博識ぶりに驚きつつも、同程度の病状を持つ患者の多くは未だに精神科病院での長期入院を強いられていることに、日本の精神医療の遅れを痛感した。

ihs_r_3_170125_sudachi_02.jpg

巣立ち会の関連施設の中で、「巣立ち風」は高齢者の利用者の割合が最も高いと言われている。「巣立ち風」のすぐ隣の駐車場を隔てたところに二階建てのアパートがあった。永住型のホームといい、計8世帯が入居しているとのことだった。目と鼻の先にあっても、体の自由が利かない高齢のメンバーにとって施設まで足を運ぶのが難しい現状となっている。一方、「巣立ち風」の清掃チームも始動して10年が経ち、高齢化のため現在常時活動しているメンバーはわずか2、3名程度である。

秋の日帰り旅行の行き先を採決で決めていたといい、「施設の中は一つの社会」という黒川さんの言葉は考え深いものだった。利用者の方々が施設の中で、社会生活のためのウォーミングアップを行い、そしていつか施設の外へと無事巣立っていけることを願うばかりだった。

わずかな間だったが、利用者の方々が社会復帰を果そうと懸命に努力している姿に感動しつつ、日本の精神医療における脱施設化にはまだまだ解決すべき課題が多く残っていると、そう実感できた研修だった。

報告日:2017年1月25日