メルボルン・シドニー研修 報告
申 知燕

メルボルン・シドニー研修 報告 申 知燕
日時
2017年1月19-27日(東京)、2月19-26日(メルボルン・シドニー)
場所
東京、メルボルン、シドニー
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト5「多文化共生と想像力」

2017年1月19日(木)から1月27日(金)まで、ならびに2月19日(日)から2月26日(日)まで、プロジェクト5「多文化共生と想像力」による日本・オーストラリア研修に参加した。本研修は、日本では東京、オーストラリアではメルボルンとシドニーを中心としており、「Visible/Invisible Cities」というテーマのもとにそれぞれの都市において可視化されている景観、もしくは隠された人や現象、歴史などについて講義、グループ活動、フィールドワークなどから学ぶことを目標とした。研修参加者はIHS生の他にも、本校やメルボルン大学、シドニー大学から学部生および大学院生が多数参加し、非常に多様性に富んだ構成となっていた。

前半部の東京研修では、時代と人、そしてその人が属していた環境を交差させ、東京という都市を重層的かつ多角的に理解した。まず、東京を題材とした映画である『東京物語』と『東京画』を鑑賞し、それぞれの作品に登場する登場人物の目に映った東京を分析した。終戦直後、子供世代に会うために地方の小都市から上京した老夫婦、ならびに東京にて生活を営んでいた子供世代と孫世代という『東京物語』の登場人物に加え、『東京物語』のオマージュを製作しに日本を訪れた外国人監督の視点から、外部の人にしか見えない東京の異質さと内部で生活する人のみが感じる疲れを同時に見ることで、都市を様々な角度から見るための感受性を喚起させられた。

その後続いたフィールドトリップでは、 歴史的な東京、エスニック・マイノリティにとっての東京、目には見えないが常に機能しているインフラとしての東京を確認した。歴史的な面からは、江戸東京博物館を訪れて江戸時代以来の東京が持っていた政治経済的な特徴、都市計画上の設計などを確認した。その後、文京区小石川庭園で、東京都心のビル群の中に残っている江戸の痕跡をみながら、歴史が過去の事実として孤立しているわけではなく、今日の都市景観と共存しているものであることを考える機会を持った。エスニックな東京の面では、代々木上原のモスクに訪問したり、新大久保のコリアタウンを題材に動画を製作したりする中でそれぞれの民族に対する理解を深めた。インフラ面では、埼玉県の水道関連施設および東京都江東区のゴミ処理場を見学し、東京という巨大都市が機能するためにいかに様々な工夫がされており、その緻密な工夫と機能に我々一般市民がいかに気づいていないかを思い知らされた。

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このような研修の結びとして、研修参加者をいくつかのグループに分け、それぞれが感じた「見える東京・見えない東京」を撮影し、映像を製作する活動も行った。1週間の間全員で同じ活動を経験したにもかかわらず、それぞれが捉えた東京は電車の駅員さんから食べ物に至るまで多様で、東京におけるさらなる発見の可能性を垣間見ることができた。

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東京研修から約1ヶ月後に行われたオーストラリア研修では、オーストラリア特有の存在であるアボリジニ(先住民)と自然景観、ならびに近年オーストラリアで注目されているLGBTを中心に、東京とはまた違う脈略での可視生と非可視生について考察を行った。メルボルンで焦点をおいたのは先住民であるアボリジニと移住者としての白人、そして両者間の関係が生み出したオーストラリアの歴史であった。特に、葛藤と弾圧という事実だけでなく、アボリジニという存在に対して白人がどのように歴史を記述してきたかに注目し、都市の一部を構成する存在を見えなくする力、またその巨大な力に対抗していく力との競合について考えるきっかけとなった。フィールドトリップではメルボルン博物館を訪問した。同博物館は、アボリジニが主体的に参加・企画して彼らの視点からアボリジニの歴史と近況をまとめた展示があることで評価されている。現在オーストラリア各地に散財している数百の部族からそれぞれの言語を録音し、訪問者にその言語を聞かせるといった展示物があり、今まで語られた歴史と自ら語る歴史を比較することができた。

シドニーでは、自然景観と都市景観、都市内における社会階層、性的マイノリティという、東京やメルボルンでは特に注目されなかった部分を見た。国立公園で登山をしながら、都市に対比する意味では自然であると同時に、管理された人工的なものでもある自然環境の存在について考えた。また、それぞれ性格の異なる2つの郊外住宅街に設置されたコミュニティーガーデンをみながら、人が都市内部に作る自然景観がどのようなものかについて、またその自然景観がそれぞれ異なる社会階層を持つ人によって作られた時いかなる差異が見えるかについて比較した。

また、筆者がシドニーに滞在した時期はちょうどLGBT関連の大規模なイベントが行われる時期の直前で、LGBTに対する関心が高まっていた。Boomalley Galleryというギャラリーでは、アボリジニであると同時に性的マイノリティである芸術家の作品を展示していたが、その展示のオープニングイベントに立ち会うことができた。イベントでは、伝統的な音楽を演奏したり、ドラァグクィーンがダンスを披露したりしていて、普段の日常では全く表に出ることのなかった彼らのアイデンティティやエネルギーがこの限られた空間で、限られた時間の間に爆発的に表現されているのが感じられ、感動すると同時に辛くもなった。

シドニーではクラス内の討論やフィールドトリップにおいてグループ活動が多く、公式活動の最後にはグループごとに独自のコミュニティーガーデンを構想するというアクティビティーも行った。普段の研修とは違って、多文化共生というテーマについて深く考えたことなく都市をみてきた学生たちの意見や提案、反応は大変興味深く、研修を通してみてきた非可視的な存在と今後共生していくには、またその共生の必要性を一般社会に共有させるにはどうするべきかを考えさせられた。

今回の研修を通して、都市が持つ様々な側面、特に非可視的な側面においていかに自分が無関心であったかを知った。移住研究を専門としていながらも、移住者以外の非可視的な部分については知識も感受性も足りなかったこと、また今回捉えていないだけでまだ色々と非可視的な部分は存在するということを意識し、その可能性を考える練習ができたのが最大の収穫であった。また、アボリジニであり、性的マイノリティであるという、ダブルマイノリティについて考えるきっかけにもなり、今まで自分が移住者というマイノリティを出身地という大まかなカテゴリーでしか見ていなかったことにも気づいた。移住者、女性、先住民、性的マイノリティ、障害者など、非可視性をさらに際立たせる要素の組み合わせにも留意しながら今後の研究に挑みたいと思った。

また、今回の研修は個人やグループの裁量で自由に行動できる時間もあり、全体的なテーマと関連して都市を散策しながら学んだことを再確認できたことが非常に有意義であった。移住について勉強してからエスニック空間を見に行けたり、もしくは新たに学んだ内容に関連して自らルートや内容を決めてフィールドワークができたりして、研修中に紹介された研究分野・テーマ・地域などについてより深く理解することができた。今回の研修で得た知識や感受性、アプローチなどを今後の自分の研究に積極的に活かしていきたい。

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報告日:2017年3月20日