Critical Nationalism Studies Workshop: National Imaginaries and Beyond 報告
城 渚紗

Critical Nationalism Studies Workshop: National Imaginaries and Beyond 報告 城 渚紗
日時
2017年9月13日(水)〜18日(月)
場所
イギリス・ダラム大学
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト4「多文化共生社会をプロデュースする」

本年より、昨年まで学生の参加が行われていなかったイギリス、ダラム大学との合同ワークショップにIHSのプログラム生も参加出来ることになった。例年の参加者に加えて東京大学からは修士課程の学生が2名発表し、現地からは博士課程の学生も数名出席・発表を行った。本年のワークショップのテーマは “National Imaginaries and Beyond” であり、このテーマを共有した上で、実に様々な地域、様々な分野からのアプローチが行われた。

初日の第1パネルでは、かつてベトナム中部と周辺の海を制していたチャムや、日本帝国主義下で主張された「日本海の湖水化」等、海洋覇権の歴史とも関係のあるトピックが取り扱われた。休憩をはさんだ第2パネルでは、ネパールの事例を通じて信仰とコミュニティの区分によって生じる葛藤や不平等性について、また本年2017年10月に独立投票をひかえているスペイン・カタルーニャ地方とフランス・コルシカ島のアイデンティティの問題について発表が行われた。

午後からは、ワークショップの一環として、ダラム大学が所有する博物館へのミュージアムツアーが行われた。アジア各国の美術品、装飾具、日用品などがコレクションされており、近年は東南アジア圏の研究も進んでいるようであった。実際にコレクションに触れ、説明を受けるセッションもあり、そこでは近現代も含めた日本のコレクションが中心に紹介された。戦時中に家族へ書かれたと思われる葉書、寄せ書きのされた日章旗、中には、おそらくは旭日双光章と思われるものも保存されていた。

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この他にも、アジアから西洋(この場合はイギリスへ)移住者となった人々の視点から、移住先で移住前の持ち物がどのように生活へ溶け込み、時に芸術として表現されるのかなど、非常に興味深い発表が行われた。ここに目を向ける行為は、自分が二つのアイデンティティの間でどの程度ある種「同化」し、どの程度移住前のアイデンティティが維持されているのか、その所属の「確認」、あるいは「揺らぎ」と向きあう取組みであるともいえよう。

翌日も、パネルディスカッションが継続されたが、スペイン・デンマークを事例としたバイリンガリズムや中国における少数民族と言語習得の状況について新疆ウイグル族自治区を事例に発表が行われた。このパネルでの発表中、前日のカタルーニャとコルシカの比較がなされた発表が思い起こされた。発表中、彼らのSelf-Determinationにはその根拠として言語があげられていた。多言語主義が採用されている国家も多いが、やはりそこでも言語は個人のアイデンティティと結びついている。どの言語をどの程度習得し、何を主軸に置くか、常日頃最も自己に近しいと思う「言葉」によってbelonging”を感じ、それが「自分を語りうる言葉」としてアイデンティティの証明において重要な意味を有しているのかもしれない。

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この日は、IHSからのもう一人の参加者であるHuang Weiweiさんと自身の発表も行った。Huangさんは出身地である中国・海南のアイデンティティの構造について、自身はやはり出身地の奄美群島のアイデンティティの不安定さと、この状況が生み出された歴史的背景が主な内容であった。ある種断絶された空間であり、一方で海伝いの「交流」の空間でもある「島」を事例に、一種のアイランド・アイデンティティの問題が論じられた。

全体を通じ、これが「わが国」「国家」であるというフレームイメージが現実には不確実性の強いものであること、そこへ固執することへの危険性が実に多種多様な地域、時代、分野から、鋭く批判されていた。

新たに「多文化共生」の道を模索していく中で、我々は「かくあるべきもの」への再考を迫られることになるだろう。これまで「ある」と考えていた様々な「枠組み」が実際には実態を持たず、実に不安定なものであること、言いかえれば本来は時流とともに柔軟に形を変えていけるものであることを再考するチャンスをこのワークショップを通じて与えられた。

報告日:2017年9月25日