「障害の現場 べてるの家ウィンタースクール2017」報告
金 信行

「障害の現場 べてるの家ウィンタースクール2017」報告
 金 信行
日時
2017年1月13日(月)〜19日(木)
場所
社会福祉法人浦河べてるの家(北海道浦河町)など
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

本報告者は、多文化共生・統合人間学実験実習Ⅲの一環として、精神障害の当事者への支援を行なっている社会福祉法人浦河べてるの家を訪問した。研修の内容を今一度振り返ると以下の通りである。まず研修1日目では、朝ミーティングと当事者研究ミーティングの見学をした後、東京大学大学院生による研究発表を行い、住居見学および向谷地生良先生との会食を行った。研修2日目では、就労ミーティングおよび生活技能訓練を見学した後、ナイトケアを行うひがしまち診療所を訪問した。研修3日目には、朝ミーティングを見学、東京大学大学院生による研究発表を行った後、作業体験に参加し、韓国の祟実大学の方々と交流した。本報告書では、報告者が学びや気づきを得たこととして、研修での活動内容と紐づけてその内容を述べたい。

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まずは研修1日目の朝ミーティングである。この朝ミーティングは、本研修を通じて毎朝見学したものであり、極めて頻繁に行われているようである。この朝ミーティングでは、気分や体調、良かったことから当日の勤務時間や仕事内容など様々な項目が確認される。職員の方々も同席するが、司会は当事者の方が行い、勤務時間や仕事内容などはその日の体調や気分に応じて当事者が自ら申告する。状況の把握は詳しくするものの管理はしないという姿勢が最初に垣間見えたひと時であり、「三度の飯よりミーティング」という浦河べてるの家の理念を感じる場であった。

次に当事者研究ミーティングである。当事者研究ミーティングでは、なんらかの「爆発」を体験した当事者が、どういう状況でそれが生じ、「幻聴さん」を含めてその状況をロールプレイングで再現し、今後その苦労を少しでも軽減するにはどのような工夫ができるかを話し合い、その工夫を含めて再びロールプレイングを行い、良かった点を再確認することが一連の作業として行われていた。ここでは画一的な処方箋を出す医師もいなければ、参加者の発言を遮る管理者もいない。ファシリテーターとして職員の方が参加するが、聞き役に徹しつつ問題状況や解決策のマッピングを丁寧に行うことで、参加者による提案を促すのみである。各々の当事者は様々な苦労を抱え、その解決策は様々である。この多様性を尊重できる環境があることは、専門家が患者を画一的に治療する、精神医療のみならず医療一般に対してわれわれがもつ漠然としたイメージを覆すものであった。もっとも、このようなミーティングを行う場合、ファシリテーターには相当の技量が求められるだろう。当事者研究ミーティングが各々の当事者の苦労を尊重する有効な手法である一方で、そのファシリテーションを担えるだけの技術を身につける難しさも意識せざるをえなかった。

そして東京大学大学院生による研究発表である。この研究発表では各々がなにかしらの役割を担ったが、なかでも印象的だったのが障害や福祉などに近接するテーマについて語る研究発表である。ある大学院生の研究発表では終了後の質疑応答で、「もっとあなた自身が抱える問題や悩みについて話してほしい」という旨の発言が、ある当事者の方からなされた。それを受けて、東京大学からの参加者の一部はなんらかの問題の当事者としてその問題を語ることになった。別の大学院生の発表では、自らが苦労していた問題とそれに対処するために考案した対策が発表の主題であった。これらの研究発表や質疑応答を聴いた後、私は「当事者として語ること」についてある種の違和感を抱かざるをえなかった。人は誰しも様々な問題や苦労を抱えており、その意味では健常者/障害者という差異など関係なく私たちは等しく自らが直面する問題の当事者である。しかし、誰もが当事者であることと「弱さの情報開示」を選択することは別の問題である。自らの抱える問題や苦悩を語ることは、他者から強制されるべきではなく、自らの意思によってなされるべきであろう。精神障害の当事者が集まるあの場で、「あなたも当事者としてなにか語れることはないのか」と問われた時、そこには「弱さの情報開示」を強制する微視的な権力関係がないと言い切ることは果たしてできるのだろうか。この点について、あの場でなにかしら問題提起ができたのではないかと、本報告者は一抹の後悔を抱いている。

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次に研修2日目のひがしまち診療所の訪問である。この訪問では、ひがしまち診療所での取り組みについてお話を伺った後、精神科医の川村敏明先生の講演を拝聴した。川村先生は「治さない医者」というモットーのもと、向谷地先生と連携した活動を行ってきた方である。川村先生の語り口は軽快でユーモアがあり、精神障害の治療という重く捉えられがちなテーマの講演とは思えないものであった。

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最後に研修3日目の作業体験である。作業体験では、浦河の特産品である日高昆布の袋詰め作業やさをり織り作業に参加した。後日参加した巣立ち風研修と比較すれば、日高昆布や織物の販売は浦河べてるの家がもつ大きな強みである。巣立ち風で受注する内職は相対的に単価が高いとは言えないことや安定した受注が難しい一方で、そのブランドも相まって日高昆布の販売は浦河べてるの家の活動に大きな利益をもたらしている。また、さをり織り作業は、回復後に生計を立てる手段の1つであるスキルの習得に貢献するだろう。地域に日の目をなかなか浴びることのない特産品が存在するかどうかは運頼みとしか言いようがないことであるが、その販売を精力的に行うことは、単に金銭的な利益をもたらすだけでなく、地域への貢献という観点からも好ましいことである。また、このような活動が地域における精神障害の当事者の包摂を促すことも期待できる。地域の発展への貢献し、かつ組織や組織に所属する人々の利益につながるような活動を考案していくことは、地域とのさらなる連携を目指す上で必要となる事柄の1つではないだろうか。そのような気づきを、本報告者はこの作業体験への参加によって得た。

報告は以上である。

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報告日:2017年2月10日