奈良「たんぽぽの家」研修報告
田邊 裕子

奈良「たんぽぽの家」研修報告 田邊 裕子
日時
2016年12月20日(火) - 21日(水)
場所
Good Job!センター香芝(奈良県香芝市)、たんぽぽの家アートセンターHANA(奈良県奈良市)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」

2016年12月21日、学生4名と石原孝二先生、そしてスタッフの方2名で奈良県香芝にあるGood Job! センター香芝とたんぽぽの家アートセンターHANAに見学に伺った。この研修は実験実習III「障害の現場」の一環として実施されており、参加学生の専門分野は人文系の中でも様々で、運営に携わるスタッフの方に多角的に質問をすることができた。

1973年に活動を開始したたんぽぽの家1は、今では頻繁に耳にするようになった障害者によるアート表現を本国において先駆的に進めてきた団体だ。現在、たんぽぽの家の活動は3つの団体によって構成されている。ひとつが「一般財団法人たんぽぽの家」、「社会福祉法人わたぼうしの会」、そしてボランティア団体の「奈良たんぽぽの会」である。

さらに、1994年から、NPO法人エイブル・アート・ジャパンとともに「障害のある人をはじめ、生きにくさを抱えている人たちと共に」アートの実践を行っていくことを理念として掲げ事業展開を行っている2。エイブル・アート・ジャパンは、トヨタ自動車との共同主催で「トヨタ・エイブル・アート・フォーラム」を1996年から開催してきており、1997年には「エイブル・アート ’97 魂の対話」展を東京都美術館で開催した。これは、障害のある人のアートが日本の公立の美術館で初の企画展として展覧された歴史的な出来事だった。

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報告者自身は、アール・ブリュットやアウトサイダー・アートを専門とする立場にはないが、アール・ブリュットの最初の定義として掲げられた「正規に美術教育を受けていないこと」、あるいはその表現主体として「障害者」が連想されやすいこと、さらには「アウトサイダー」といった作家の属性を前提とすることが作品の評価にどのように影響を及ぼしているのか、そしてその是非の議論はどのように展開しているのかに漠然とした関心を抱いてきた。そして(括弧つきにするべきイメージとしての)「一般社会」と障害を持つ人々の接点をアート活動によって創出する必要性に共感する一方で、障害への偏見を多数派の都合に合わせた聞こえの良いレッテルに張り替えただけにはならないのかという疑問も感じていたため、その支援に従事する立場の人々が、障害とアートをどのように結びつけて推進しようとしているのかを知るために現場の声を伺ってみたいと感じていた。

この点について、スタッフの岡部太郎さんは過去のインタビューでこのように語っている。

「アール・ブリュットやアウトサイダー・アート […]はおもに美術のジャンルや市場のことを指すと思うのですが、『エイブル・アート・ムーブメント』は、市民が主体となった『芸術運動』です。人々が生活のなかで出会うものごとにたいして、[…]『見る力』を育てることが目的だと思います。だれかの評価に委ねて作品を見るのではなく、自分の価値観で作品を見る能力を育むということを大切にしているのです」3

障害とアートを結びつける活動の背後に、市民の生活への課題意識があることが伺える。

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2016年9月に竣工したばかりのGood Job! センター香芝では、企画製造ディレクターを務める藤井克英さんに活動の概要を伺った。南館と北館があり、施設利用者の作業スペースや近隣住民が集えるカフェ、さらに2階には作品を生かした数々の製品が陳列されている。入り口が吹き抜けになっていて開放的にデザインされたGood Job! センター香芝は、それぞれのスペースがゆるやかに区切られつつも互いの気配を感じて安心するような、居心地の良い空間だ。

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藤井さんは、1970年代の、まだ養護学校が各県ひとつしかないような時代から活動の変遷を示してくださった。現理事長・播磨靖夫さんが当時新聞記者として目の当たりにしたのは、未認知の社会問題としての障害者支援の現場であったという。そこからコンサートを企画したり、寄付金を募ったりして、多くの人に参加してもらうような広がりのある運動を展開してきた。そんななか、2006年の障害者雇用促進法の改正と障害者自立支援法の施行を契機に、障害者支援の現場では、障害者が自ら働くということの具体的な模索が要された。そこで2007年にAble Art Companyを設立し、継続して行ってきた表現活動の促進に加え、「作家や作品の情報を一元管理し、作品使用に関する窓口」4を設けた。これは、作家としての障害者とその作品を製品デザインに使用したいと望む企業の仲介を担うことで、アーティストとして安心して活動し稼ぐことができるような仕組みだ。現在、登録作家数は西日本を中心に全国に104人、登録作品総数10,321点となっており、募集の倍率は8〜12倍だ。交渉・広報・管理をカバーするこの事業は、一般財団法人たんぽぽの家を本部として、NPO法人エイブル・アート・ジャパン(東京、宮城)と、NPO法人まる(福岡)の三者が連携し、共同で担っている。

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藤井さんは、自らの務めを「翻訳」だとおっしゃった。この場合の「翻訳」とは表現者と企業の間の橋渡しのことだ。スタッフは、生み出された絵や造形物が製品として成立するように一工夫を加えたり、作品の魅力を企業に宣伝したりすることで、表現することを好いてやまない障害者が作家としての顔を持つことを可能にしている。障害と共に生きる日々に、表現行為を通して働く意識と自立心を植えて育てるために、その環境を整えるのがこの「翻訳者」たちの役割だといえるだろう。こうした工夫の背景には、一般就労をしても3年にわたって続けられる人が全体の3割にとどまるなどの課題がある。就労の継続性とはすなわち就労「支援」の継続性であり、就労の「仕組み」の根本的な改善の必要性を意味しているのである。

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続いて訪れたたんぽぽの家アートセンターHANAは、2006年にオープンした施設で、1998年に始まった「地域に開かれた表現活動の拠点とする『アートスタジオ化構想』」が結実したものである5。スタッフの岡部太郎さんによると、現在利用者は61人。障害種別や年齢は様々で、いくつかの大部屋にアトリエを構え、個々人が望む形で制作に取り組めるように空間がデザインされている。

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ここでも、社会と福祉支援組織を積極的につなげていく「中間支援」の理念を掲げている。この理念の背景にあるのは、播磨氏が捉えたNPOの社会的意義だろう。美術を学んだ背景を持つスタッフたちによって、アートの場が整えられ、そのスキルを方法論として社会との接点を創り出していくことは、特定の専門技術を活かす「翻訳」組織としてのNPO像が見えてきた。

たんぽぽの家の活動は、日々の活動から大きな構想においてまで、常に可能性の広がりが意識されている。当初私が疑問として抱えていた、作家を障害者としてより一層過剰に演出してしまうことへの危惧については、ビジネスと生活ケアを分離せずに連携させて支援するこの組織の体制とスタッフの姿勢を拝見したことによって解消された。

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継続的な作家の顔を担保するためには、信頼できるビジネスパートナーであることが重要だ。スタッフはその点を担うと同時に、交渉や宣伝を行うことで作家としての立場を守っている。今回の訪問とお話を通して、スタッフは黒子として「障害のある作家」を表舞台に引っ張り出してブランディングし知名度を無責任に上げてしまうのではなく、むしろ仲介者として積極的に窓口の役割を担い、その二人三脚の仕組み自体を強固にすることで信頼を高め、良い関係づくりに取り組んでいることを実感した。企業がCSR(企業の社会的責任)として発注依頼するにせよ、あるいはデザインそのものを評価するにせよ、継続性と展開のある経済活動を一体となって行っていくことは、生活への支援と密接に結びついた活動だ。障害とアートの結びつけは決して突飛な傾向ではなく、従来の福祉支援の延長に生まれた、市民活動全体の新たな側面なのだと結論づけることができそうだ。それは、岡部さんの「ここにいると誰がスタッフで誰がメンバーか、誰がボランティアで誰がお客様なのかわからなくなることが多いですね」という言葉に端的に表れている6。たんぽぽの家は、障害の有無以前に「個」としてひとりひとりが尊重される場を営むことをモットーに、具体的な支援制度の隙間からこぼれ落ちていってしまう想いや可能性に向き合うための対策案を練り続ける手立てとして、表現活動を位置付けているのである。

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今後の新たな課題も得ることができた。それは、身体表現を支える仕組みづくりである。商品化しやすい絵に対して、身体表現は同じようにはいかなさそうだ。他の研修とも結びつけながら、この点について調査と考察を深化していきたい。

お忙しいなか、お時間を割いて丁寧に説明をしてくださった藤井さまと岡部さまに改めて感謝もうしあげたい。ありがとうございました。

報告日:2016年2月21日