「多文化共生・統合人間学演習VI 実地研修」報告
森山 剛志

「多文化共生・統合人間学演習VI 実地研修」報告 森山 剛志
日時
2016年7月20日(水) - 21日(木)
場所
JT生命誌研究館(大阪府高槻市)、堀場製作所びわこ工場(滋賀県大津市)
主催
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト3「科学技術と共生社会」
協力
JT生命誌研究館、(株)堀場製作所

今回の生命科学研修では、大阪府高槻市のJT生命誌研究館・滋賀県大津市HORIBA BIWAKO E-HARBORの両施設を訪問し、「生命科学」を通した世界の見え方とユニークな応用先を学習した。そこで、各施設で感じたこと・全体でのまとめに分け、学んだことを報告する。

JT生命誌研究館

中村桂子館長のお話では、「生命科学」という言葉に込められた研究館設立の意図が印象に残った。

認知症のファクターを探るためのDNA解析・臓器移植の問題点を解くためのiPS細胞研究といった医療問題を解くことが「生命科学/Life science」の根本的な目的だと私は思っていた。しかし、ヒトの生命を支えるための研究の流れとは別に、「生命科学」には人間を含めた様々な生命種をDNAという共通の切り口から研究するという潮流もあり、JT生命誌研究館もこの流れをくんでいるとのことであった。

今まで私は「生命科学」とは生命に関わる不明点を解き明かして世界を「分解・観察」する精度を高めるものだと思っていたが、それに加えて「生命科学」は生命という1つの物差しをあてることで世の中を貫き「統合」するという新しい見方を学習した。例えば、宗教が過度に信仰されたことに起因する対立が人類有史以来頻繁に起きているが、そこに「生命科学」に拠る生命論的世界観を導入することにより何か新しい知見・切り口を与えられるかもしれないという誇大な妄想も膨らむのだ。

また、DNA二重らせん構造を模した階段・生命種増加の歴史を示すガラスパネルなど工夫にあふれた展示も印象深かった。ただ生物が専門外の私にとって、階段にかけられた生物の進化を描く絵画1枚1枚の意味など、解説抜きで理解するのが難しい箇所も多かった。今回は研究員の方にじっくり解説していただいきながら観覧したので特に配布されなかったのかもしれないが、展示内容を手元で確認できて持ち帰ることもできるハンドアウトがあったら尚ありがたいと思った。

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HORIBA

今回の堀場製作所や以前訪問した東京大学生産技術研究所竹内研の見学を通して、「専門知を活かしたプロダクトデザインがどのようなスタンスで取り組まれているのか」、「プロダクトデザインにどの程度専門知が必要なのか」といった点を少し理解できた。今まで自分が学んできたサービスデザインの分野では、生命科学などの専門知を前面に押し出してその機能を効率よく実現するといった、科学技術を十分に活用する例はほとんどなかった。むしろ、ユーザーを中心にカテゴライズされる手法、人間の行動観察などから新しい「場」を作ることばかりを追求しており、製品の機能・質をしっかり考えていなかったことに気づいた。学生と企業の差は大きいのかもしれないが、今までの自分とはこんなにも違った出発点から異なった手法でデザインしていることがわかった。デザインを考えるうえでの視点が多様化したことがこの授業の最大の収穫であった。

ディスカッションでも少し触れたが、小学校の百葉箱に代表されるように、機密性・計測機器の正確さを保持するために、「分析・計測」システムは一般人から遠ざけたいとする心理が技術者・設置者には働きがちである。一般人側も「分析・計測」システムを日常生活に利用する機会が少なくその存在をほとんど意識しないこともあり、結果的に「分析・計測」機器は街中の目立たない場所におかれてきた。しかし、近年途上国では水質を気にかける習慣を人々に促すため計測機器を集落に普及させる動きが見られる。先進国でもDavis(アメリカ合衆国カルフォルニア州)1 のように自分達が暮らすエリアのローカルな情報を双方向に発信する電子掲示板を設置する例もある。またデンマークのコペンハーゲンでは、今まで無関心どころか忌避される施設であったごみ焼却場の屋上に人工スキー場を設置する動きが見られた。これにより人々に娯楽を提供するだけでなく環境に対する関心を高めようとしているのだ。

このような近年の流れを汲んで、堀場製作所ように技術力に秀でた会社が、一般の人々でも積極的に利用したくなるような水質、放射能などを「分析・計測」する機器を手がけたり、更にその動きが広まるようなプロジェクトを自治体などと協力して取り組めば面白いと思った。

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まとめ

「生命科学」の応用先としてiPS細胞などを用いた再生医療関連・曖昧な脳科学という分野しか私は知らなかった。しかしこの授業・現場研修を通してガン治療を巡る諸問題や生命誌(38億年前から進化して多様化してきたすべての生き物と、今いきているということ)を通した新たな世界観などを知り、生命の進化と同じように生命科学が目指す先も多様であることを把握することができた。動植物の観察から人工物の造形を作り上げたという事例は、ダヴィンチの鳥をモデルとした飛行機設計を始めとし古来より枚挙にいとまがない。現在でも、NOIZ ARCHITECTSという建築集団は植物の光合成メカニズムを3Dソフトに書き起こして参考にすることで、建物全体の換気システムを改善する工夫を図っている。これらのデザインは、ある種の生命メカニズムの応用だが、「生命科学」が多岐にわたって応用されていることを見るにつけ、生命の根幹を問う「生命科学」の研究結果を参考にしたプロダクトが近い将来にうまれることも期待できるであろう。

生命科学に限らず、世間から見えるのはその科学分野の成果物のほんの一部に過ぎない。その成果物に至るまでには膨大な積み上げがあるのだ。今回その積み上げの一端を見られたことで「生命科学」に関心・親近感を覚えるようになった。この関心・親近感を活かし、いつか「生命科学」の成果物と社会とを繋ぐ製品を作る機会を得てみたいと切に思う。

報告日:2016年8月5日