プログラム生自主企画:女性・ジェンダーの視点から「現場」を考える 報告
中村 彩

プログラム生自主企画:女性・ジェンダーの視点から「現場」を考える 報告 中村 彩
日時:
2014年度冬学期
場所:
東京大学駒場キャンパス、アジア女性資料センター、大阪大学
共同企画者(順不同)
中村彩、崎濱紗奈、波多野綾子、伊藤寧美、信岡悠、半田ゆり
主催:
東京大学大学院博士課程教育リーディングプログラム「多文化共生・統合人間学プログラム(IHS)」教育プロジェクト2「共生のプラクシス──市民社会と地域という思想」

IHSプログラムが掲げる「多文化共生」やプロジェクト2のユニット名のひとつである「格差・人権」を考えるにあたって、ひとつの重要な要素として挙げられるのが、女性の問題である。

1990年代以降のフェミニズムは、ポストコロニアリズムやクィア理論などとも結びつきつつ非常に多様な展開を遂げており、フェミニズムの中から出てきたジェンダー・セクシュアリティ分野の研究の主体が多様化し、「女性」だけでなくなってから久しい。「フェミニズム」以外にも「ジェンダー論」、「クィア理論」、「男性学」等、ずれつつも重なり合う多様な領域が出現した。また急激な社会の情報化や医療技術の開発、「家族」に関する法規制の進展などにより、理論が現実に追いつかない状況がある一方で、この20〜30年の理論の先鋭化・複雑化によりアカデミアと運動との乖離という問題も生じている。

とはいえこのことは「フェミニズム」がもはや不要になったことを意味するのではない。むしろ今だからこそ様々な理論の展開を踏まえつつ、現実における個別の課題に真摯に取り組む必要がある。このような意識のもと、大学にいる私たちがフェミニズムの様々な「現場」を考える機会を設けるため、2014年度冬学期、フェミニズムに関心のある6名の学生を企画者とする自主企画を実施することとなった。具体的には、月1回程度の勉強会、アジア女性資料センターへのインタビュー、およびヘルシンキ大学のサラ・ヘイナマー教授の来日に合わせたふたつの企画が実施された。以下では今学期の活動の成果を報告するとともに、反省点や今後の展望について記したい。

勉強会とアジア女性資料センターインタビュー

11月に行われた2回の勉強会は、企画メンバーの顔合わせの場であるとともに、どのように活動のターゲットを絞るのかについて話し合う機会となった。企画学生の専門は沖縄研究、ラテンアメリカ地域研究、ジェンダー法学、写真、演劇、フランス文学などと多岐にわたっていたため、初回は各々の興味関心とそのフェミニズムとの関連について考え、接点を見つけていくための話し合いが行われた。2回目の勉強会では、いくつかのテクスト(竹村和子編『"ポスト"フェミニズム(知の攻略 思想読本)』、伊藤るり編『グローバリゼーション(新編 日本のフェミニズム第9巻)』、シンシア・エンローのインタビュー)の一部を課題文献として読んだ上でディスカッションを行なった。これも前回に引き続き、専門分野の異なるメンバー内で共通の基盤を作るための作業であった。

12月の3回目の勉強会では、フェミニスト団体「アジア女性資料センター」へのインタビューの準備として、団体の活動内容などを調べたうえで企画者の関心に応じて質問を用意した。同時に、今後の活動内容について打ち合わせも行なった。このときの反省点を挙げるならば、年度末に向けて五月雨式に企画案が持ち上がり、それに関する学生・研究員・教員の間での情報共有と意思疎通が不十分であったという点である。今後の企画運営にあたっては、より円滑に進められるよう工夫したいと思っている。

12月22日、アジア女性資料センターを訪問し、活動家の方へインタビューを実施した。近年の活動内容と絡めて、アートと表現の自由、性教育、沖縄の問題など取り組んでいる様々な課題について伺った。同センターでは、国連への提言などマクロな視点からの活動とともに、ユースグループによる「ジェンダー・カフェ」などミクロな視点からの活動も積極的に行なっている。インタビューを通して、今の日本の政治・社会が様々なレベルで抱える問題について多少なりとも認識を共有することができたというのは、ひとつの成果だと感じている。

サラ・ヘイナマー教授来日関連企画

1月18日に行われた勉強会では、3月に予定されていた企画に向けた準備を行なった。3月に予定されていたのは具体的には、フェミニスト現象学などをご専門とされているサラ・ヘイナマー教授(ヘルシンキ大学)の大阪大学での講演・公開セミナーへの参加を目的とする「阪大出張企画」、そしてその後ヘイナマー先生を東京大学駒場キャンパスにお招きして講演・ワークショップを開催する「駒場企画」である。(このほか3月8日〜10日には、クィア理論・映画研究を専門とする同志社大学の菅野優香先生のゼミ生の方との合同研究会を行う「同志社企画」が予定されていたが、これは結果的には本学生自主企画とは別に実施されることとなった。)

その後3月1日に、ヘイナマー先生の来日に向けて、フェミニスト現象学に関する先生の論文を読む勉強会を実施した。この日は企画メンバー以外にも専門の近い学生を交えて、フェミニズム理論や哲学におけるフェミニスト現象学の位置などについて疑問点や意見が交わされた。

3月23〜25日には企画者のうち3名が大阪大学に出張し、ヘイナマー先生の講演およびセミナーにて、一足先に先生とお会いする機会を得た。初日の講演の内容は、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著作『老い』の考察を中心に、老いに関して現象学的に検討するというものだった。次の2日間は学生や若手研究者の発表に対しヘイナマー先生がコメントするというセミナー形式で進行し、様々な事象が現象学的観点から考察された。

3月27日には駒場でヘイナマー先生の公開講演・ワークショップが実施された。Gender and Embodimentと題された先生の講演では、セックス/ジェンダーの概念が歴史的に検討され、それに代わるものとしてフッサールの現象学におけるエンボディメントの考え方が提示された。また報告者もボーヴォワールの『別れの儀式』に関する発表を行い、晩年のサルトルの老いや障害の問題を取り上げた。ディスカッションでは、現象学におけるセクシュアリティの扱い、老いの問題、概念を用いることによる差異の普遍化の問題、科学的な知に対する経験の哲学としての現象学の意義といった多様な論点が提起された。報告者は阪大・駒場両方の企画に参加する機会を得たが、どのような発表や質問に対しても真摯に耳を傾け応答するヘイナマー先生の姿には感銘を受けた。

以上が今学期の活動の成果報告である。今回はアジア女性資料センターという大学の外の運動の現場を垣間見る貴重な機会を得ると同時に、ヘイナマー教授関連企画という大学の中のアカデミックな活動にも参加することとなった。ここで忘れてはならないのは、東京大学を含め現在のアカデミアにおいても、フェミニズムを冠した活動を行うことに対する障害が生じることは少なくないということであり、そのような意味において、私たちのいる大学も当然ながらフェミニズムが切り込んでいくべきひとつの「現場」である。このことを踏まえ、今回の活動を通じて得られた多くの人とのつながりを大切にしつつ、今後も活動を続けていきたいと思う。

プログラム生自主企画:女性・ジェンダーの視点から「現場」を考える 報告 中村 彩
プログラム生自主企画:女性・ジェンダーの視点から「現場」を考える 報告 中村 彩
報告日:2015年3月29日